小野登志郎のブログ

出版・ウェブの制作会社(株)小野プロダクション代表で、ノンフィクション・ライターの小野登志郎です。徒然にゆる~く書いていけたらと思ってます。

カテゴリ: 東アジアの軍事問題

 そんな軍隊生活で唯一の楽しみは休暇であるという。ソウルを訪れたことのある人なら、ソウルの街角で迷彩服に迷彩帽を被った若い兵士が、恋人と思われる女性と一緒に歩いているのを見かけたことがあるかもしれない。彼らのほとんどが休暇中の韓国軍兵士である。彼らは休暇の短い日々を、一刻を惜しむかのように恋人や家族と過ごすのである。

                      

 しかし時には入隊中に恋人に去られる兵士もいる。ある日突然、恋人からの連絡が絶える。何度連絡しても連絡が着かなくなる。こうした場合、ほぼ100%恋人が心変わりしたか、他の男に乗り換えたかである。だが兵営に閉じ込められた彼らになすすべは無い。

 

 このような軍隊生活だが、悪いことばかりではないという。同期兵の結束は固く、除隊してもその濃密な関係は続いていく。また新兵時代はいじめてばかりいた先輩も、やがては頼もしい上司に変わっていく。この上下の結束もまた固い。除隊後も、先輩は後輩を様々な形でバックアップする。こうした関係が連綿と続いて韓国社会を支えているともある意味言えるである。

 

 韓国軍の兵営生活の体験談を書いた本に、『韓国徴兵、オレの912日』(講談社+α文庫 チュ チュンヨン著)というものがある。その中で著者は「韓国の男なら一度は軍隊に行くべきだ。しかし二度と行く所ではない」と書いているが、言い得て妙であり、これが軍隊に行った韓国の男の本音なのではないだろうか。

 

 最近除隊したイ・ジュンギの除隊の時のニュースを韓国で見たが、あのどちらかといえば“チャラ男”タイプのジュンギが、逞しく変身しているのを見て驚いたことがあった。優男のヒョンビンもユナクも、2年半後は逞しく変身して帰ってくるだろう。特にヒョンビンは、あの“鬼のヘビョン(海兵)”に行くからには、その変身ぶりを今から想像することは出来ない。

 

■兵役逃れは国民の厳しい目に晒される

 

 ところで、数年前までは様々な手を使って兵役逃れをする俳優やスポーツ選手が後を絶たなかった。サイクルの激しい韓国芸能界で、2年半の空白は致命的であると考えるのも無理からぬことである。

 

 また芸能プロにとってもドル箱を失うことは大きな痛手であった。兵役逃れは本人というより芸能プロが手を廻したケースのほうが多いであろう。そんな時、大掛かりな兵役逃れブローカーが摘発された。その男が扱った俳優、タレント、スポーツ選手のリストの中には『秋の童話』でブレークした俳優ソン・スンホンが含まれていた。

 

 彼らは韓国社会から激しい批難を浴びることになった。韓国では兵役逃れは“国賊”に等しい扱いを受け、大統領選の行方を左右したこともあった。2001年の大統領選挙で保守ハンナラ党の候補だった李会昌(イ・ヘチャン)は当初圧倒的に民主党の盧武鉉(ノ・ムヒョン)候補をリードしていたが、選挙中盤に彼の息子の兵営逃れが発覚、見る間に支持を失いノ・ムヒョン候補に逆転されたのであった。

 

 これが韓国の一側面なのだろう。それは芸能界でもなんら変わりは無いのかもしれない。

 

 ソン・スンホンは国民に謝罪声明を出し、すぐさま入隊した。謝罪は功を奏し、ソン・スンホンに対する評価は180度変わった。除隊後の彼の活躍と人気はそれを如実に物語っている。

 

 その後、韓流スターの兵役逃れが表面化したことは無い。また、彼らの入隊や、入隊後の姿は度々芸能ニュースで伝えられ、ファンはスターの近況にふれることが出来る。こうしたこともあり、入隊したことが原因で人気を落としたという話はあまり聞かれなくなった……。

 

 そして、こうした韓流スターや有名人とは違う、普通の韓国人青年男子たちの兵役に、ここ日本から想いを馳せる。彼らの肉声が日本に伝えられることは少ないが、時折触れるその声に、今もなお、大いなる異和をわたしは感じてしまうのだ。

 

 やはり韓国とは、近くて遠い国なのかもれない。



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■地獄の新兵訓練

 

 韓国の兵役は2年間である。彼らはその期間のほとんどを兵営で過ごすことになる。

 

 入隊するとまず、8週間間の新兵訓練が待っている。これまでは5週間だったが今年から8週間に延長された。新兵訓練は忠清南道論山で行われる。ここでまず入隊した新兵は最初の地獄を見ることになるという。

 

 ここでは射撃訓練をはじめ、様々な訓練が実施される。この8週間で、普通の市民社会に慣れていた韓国青年たちは徹底的にシゴかれ、「軍人」に鍛え上げられていくのである。これを「本物の男」だと言う韓国人は少なくない。

 

 去年秋入隊した、ピことチョン・ジフン2等兵は、射撃訓練でトップ5に入る成績を収め表彰されたという。ピは、韓流スターとしてだけでなく、兵士としても有能なようである。

 

 こうした新兵訓練の中でも最も過酷なのは、慶尚南道項浦の海兵隊基地で行われる海兵隊の新兵訓練であると先に書いた。これは通常6週間行われるが「地獄の中の地獄の訓練」として知られている。

 

 海兵隊兵士には「誰でも海兵になれるならば、自分は決して海兵隊を選ばなかっただろう」という思いと、少数精鋭というモットーから、強い自負を持っていると聞く。そんな彼らが対峙するのは、北朝鮮の最精鋭、特殊部隊である。彼らもまた地獄の訓練で知られている。

 

 北朝鮮のそれは、やや誇張されているとは聞くが、韓国で大ヒットした映画『シュリ』の中で描かれていた。この映画には、わたしは圧倒された。

 

 くだんの映画のワン・シーン……。銃の分解組み立て訓練で、勝った方が負けた方を組み立てた銃で射殺するというものがあった。本当なのかどうか分からない。嘘だろうとは思う。しかし、こうした「敵」と戦うわけだから、韓国の海兵隊の訓練は、時に死者も出す過酷なものとならざるを得ない。

 

 韓国海兵隊の訓練と称するものが民放のバラエテイー番組で放映されたことがある。それは、海兵隊のOBがつくった会社が行っているもので、新入社員の特訓などで行っているが、本物はあんなものではないという。

 

 ヒョンビンは、地獄の訓練を無事終了し、北朝鮮と海を隔てて向かい合うペリョン島の海兵隊に配属された。ここはいつ北朝鮮から砲弾が飛んでくるか分からない、最前線中の最前線だ。もし再び北朝鮮と戦端が開かれたら、いの一番に北朝鮮兵が上陸する場所でもある。この島でヒョンビンは約2年間、韓国軍海兵として過ごすのである。

 

■まるで「たこ部屋」、韓国軍の兵営生活

 

 新兵訓練を終えると各部隊に配属され、いよいよ本物の軍隊生活が始まる。

 

 北朝鮮軍と直接対峙する38度線や延坪島などのNLL(北方限界線・海上に引かれた軍事境界線)にある島に配属された兵士は、常に準軍事態勢で緊張の日々を送ることになるという。

 

 38度線上……。イ・ビョンホンと『チャングムの誓い』ノイ・ヨンエが主演した映画『JSA』は、実質的には“戦場”を舞台にした作品である。

 

 38度線内にあるDMZ(非武装地0帯)には、その名前とは裏腹に無数の地雷が敷設され、監視塔には実弾を装填した機関銃やライフルを構えた兵士が、北朝鮮兵の侵入に備えている。韓国軍は38度線内を定期的にパトロールするが、それは北朝鮮側も同じで、パトロール中に両軍兵士が鉢合わせすることも度々で、銃撃戦になったこともある。

 

 韓流スターの青年たちが、K1ライフルを構えて、北朝鮮軍と銃撃戦を展開していることを想像することは、酷なことであるかもしれない。しかし、それは決してドラマや映画の中の話だけではなく、現実におこっている隣国の事態なのだ。

 

 しかし韓国の芸能人の多くは芸能兵となり、軍の宣伝や軍隊の慰問活動などの任務に着くことから、実際のところあまり心配することもないとの声もある。芸能兵として軍隊生活を送った芸能人には、チソン、コン・ユ、キム・ジェウォン、イ・ドンゴン、イ・ジュンギといった韓流スターをはじめ、歌手のJohn-Hoon、キム・ボムスやホン・ギョンミン、ムン・ヒジュンなどがいる。

 

 また現役兵の中には、自宅通勤する「常勤予備役」という服務形態で軍隊生活を送る者もいる。彼らは主に地域防衛や兵器管理などの後方業務に着く。現役兵の中からから選抜されるが、例えば俳優ヨン・ジョンフンは常勤予備役で兵役を終えている。

 

 しかし、厳しいのは軍務だけではない。兵営生活もまた“苦難”に充ちている。

 

 兵営では、新兵は奴隷同然の扱いを受けるという。古参兵はみな新兵時代に“いじめられた”経験を持ち、1年経って新兵が入営してくると、まるで自分の新兵時代の敵をとるかの様にてぐすねを引いて新兵を待ち受けている。そして彼らをいじめるのである。

 

 上士に進級すると兵営の中でいわば牢名主であるかの様に振舞う。寝転んだまま「タバコ」と一言いうと新兵が飛んできてタバコに火をつけると言った具合である。こうなると待ちに待った除隊はもう目の前である。

 

 新兵はよく殴られるという。勤務や訓練で失態を犯すと分隊全体が責任を取らされる。兵営に帰るとその失態を犯した新兵には古参兵の鉄拳の嵐が待っている。

 

 かつてはあまりのいじめの酷さから、神経に変調をきたす者や自殺者が続出。また、いじめた古参兵を射殺し銃を持ったまま逃亡、追跡した憲兵と銃撃戦の末、射殺されるという痛ましい事件が起こったりしている。最近では、軍の兵営生活のあり方は韓国社会の批判を浴び、少しは改善されたと聞くが、長い間の伝統はそう容易く変わるものではない。

 

 何故韓国軍の兵営でいじめが繰り返されるのか。それは我が日本と深く関係していると言う向きもある。

 

 朝鮮戦争時、韓国軍の主流を成したのは旧日本軍の軍隊経験を持つ男達であった。韓国の経済成長の立役者となり今日の繁栄の基礎を作った朴正熙元大統領も、日本の陸軍士官学校出身者で朝鮮戦争当時現役の佐官であった。

 

 彼らが作り上げた韓国軍は旧日本軍そのものであった。内務班と呼ばれる悪名高い兵営生活もその時持ち込まれた。韓国軍では「気合(キハップ)を入れる」という言葉が使われているが、これは旧日本軍の「気合いを入れる」と全く同じである。つまり韓国軍の兵営生活は、旧日本軍のそれとほとんど変わらないものであったというのだ。


(つづく)

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 韓国に生まれた男なら避けて通れない道がある。兵役である。


 この問題を兵役の無い国、日本の男であるわたしが語るのは、やはり何かと重いものがあった。兵役の有る無しによる韓国人とわたしの「愛国」や「郷土愛」、「国家に対する貢献」などには、質的な違いがあることは否めず、隣国の異質な青年体験に対してどのような立ち位置が適切なのか、長い間、分からないでいたからだ。

 

 二十代の頃、同じ年頃の韓国人男性と会い酒が入ると、彼らはサッカーと軍隊の話をした。サッカーの話は分かるのだが、こと軍隊となると、こちらは話をすることができない。軍隊や兵役というものは、頭の中ではある程度は分かるのだが、分かった風に答えてしまうと、彼らの神経を逆なでするのではないかと慮り、言葉をつぐんでしまう。

 

 ある韓国人の若者は、兵役を断固拒否すると言って、日本のわたしの知人宅に泊まっていた。彼からいろいろと話を聞いた。兵役という過酷な任務からの単なる逃避ではなく、彼なりの思想的な理由が動機であることは痛いほど分かった。

 

 隣国の同世代の青年男子が直面する兵役に対して、その時わたしは、話を聞くだけで何かを言える立場にはなかった。徴兵制の無い日本で、わたしが兵役を避ける必要はもちろん無かったが、彼ら韓国人の若者が直面する兵役という問題をわたしは避けてきたのかもしれない。

 

 それから月日が何年か経った。なにかロジカルな理由がある訳ではないが、30歳の半ばも過ぎ、「男」的なる諸問題群から相対的に距離を取れるようになった今、隣国の兵役について思ったことを書いても良いのではないか。また、この一年半ほど、韓国の青年男子たちが作り出す文化・エンタテイメントにどっぷりと漬かったことから、そんな彼らの「戦士」性を意識せざるを得ないと思ったことから、ここに韓国の兵役と韓流スターたちについて書くことを試みてみたい。

 

 改めて書くまでもなく、韓国は北朝鮮と対峙する準戦争国家である。それは1950年の朝鮮戦争以来、60年以上も続いている。

 

 朝鮮戦争60周年目の2010年には、韓国では朝鮮戦争そのものを取り扱ったドラマや映画がいくつも作られた。ドラマでは俳優のソ・ジソプとキム・ハヌルが競演した『ロードナンバーワン』、映画では今人気絶頂の「ビッグ・バン」のTOPが、俳優クォン・サンウと主演した『戦果の中へ』がある。数年前に公開され、韓流ブームの走りの一つとなったチャン・ドンゴン、ウオンビン主演の映画『ブラザーフット』も朝鮮戦争が舞台だった。

 

 韓国にとっては、朝鮮戦争は決して過去のものではなく、現在進行形である。先述したように、わたしが韓国の男たちと話をする時、この「戦争」という言葉が重くのしかかる。

 

 韓国と北朝鮮は休戦しているだけで戦争状態は依然継続中だ。2010年に起こった北朝鮮潜水艦による韓国軍艦「天安撃沈事件」や、ソウルからそんなに離れていない延坪島に対する北朝鮮の砲撃では、韓国側は多くの戦死者を出している。そして38度線では小競り合いが日常茶飯事で、韓国軍兵士が負傷したり、悪くすれば死ぬという事件が頻発している。

 

 前置きがいささか長くなったが、この兵役という道は、韓流スターたちにとっても避けては通れない道だ。わかり易く言うと、現在兵役中の「超新星」のユナクや、現在NHKBSプレミアムで放送中の『シークレットガーデン』で主役を勤めているヒョンビンが、北朝鮮の不意打ちを受けて負傷したり、最悪の場合、死ぬことさえありうるかもしれないと言うことなのだ。

 

 そして、これは現在人気絶頂のチャン・グンソクや東方神起、JYJのメンバーが、そうした運命に曝される可能性があるということも意味する。中でも韓国軍の最強部隊で、北朝鮮と最前線で対峙する海兵隊を志願したヒョンビンは、その可能性が相対的に高くなる。

 

 通常、兵役に就いた韓流スターたちは新兵訓練が終わると、芸能部隊や、宣伝部隊に送られることになり、いわゆる前線に配備されることはあまり無い。しかしヒョンビンは、あえて最前線の海兵隊、通称ヘビョン(韓国語で海兵)を選んだのである。

 

 前線勤務だけではない。ヘビョン(海兵)は、その訓練の凄まじさでも通常部隊を遥かに超えていると聞く。10日以上も食料を持たず山に籠り、草や蛇、カエルなどを食べて過ごすと言うようなこともあるという。冬は凍った川の氷を割り、その中に上半身裸で飛び込んだりもするのである。こうした訓練中に事故死する兵士も少なくない……。

 

 現在兵役中の韓流スターを列記してみたい。

 

 前出のヒョンビン、ユナクのほかにNHKBSでOAされた日韓共同制作のドラマ『赤と黒』で主役を張ったキム・ナムギルなどがいる。去年は人気歌手で俳優でもあるピ(Rain)ことチョン・ジフンも入隊した。『ロードナンバーワン』で韓国軍兵を演じた俳優ソ・ジソフも入隊し、本物の兵隊になった。

 

 今後の兵役予備軍は、チャングンソク、JYJはもちろん、キム・ヒョンビン、「ビッグ・バン」、「2PM」とスターたちの枚挙に暇が無く並ぶ。

 

 昨年11月、JYJのユチョンとジュンスが兵務庁に兵役のための身体検査を受けに行き、検査に通ったというニュースが流れた。これで二人は最小5ヶ月以内、もしくは2年以内に軍隊に行かねばならなくなったはずだ。

 

 10代や20代前半の男性スターは、ほぼ全員この運命を受け入れざるを得ない。まれに、肉体的理由で兵役を免れたスターがいないわけでも無い。代表はあの元祖韓流スター、ヨン様こと、ペ・ヨンジュンがそれである。

 

『大王四神記』で激しいアクションを演じたヨン様が、肉体的理由で兵役を免れたとは意外だが、理由は視力が弱いということだったらしい。チャン・ドンゴンもまたデビュー前に気胸手術を受けたという理由で兵役を免除された。

 

 韓国の兵役。先述したように、わたしを含む日本の男性は、それを語る時、さまざまなことを考えてしまい、言葉をつぐんでしまうことが少なくない。兵役を免除されたスターと最前線に自ら志願したスターの、そのどちらかを支持することは、もちろんわたしにはできることではない。

 

(つづく)

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