・アメリカンアイドルたちの「処女幻想」と「童貞幻想」

 こちらは涼しくなってきましたが、ニッポンは色々と「熱い」みたいですね?

 SMエンターテインメント社とディズニー社のアイドル達について比較してみよう! と考えてたら、先日書いた中でちらっと出てきたジョナス・ブラザースについて思い出しました。それは彼らが『童貞王子様』だった事なんですが、興味あります? ふふふ。

 ですので、『王子様の童貞ごっこ-ファンガールに愛の花束を』というタイトルで今回は行ってみたいと思います。

 2008年、『Purity Ring』事件は発生しました。日本で報道されましたか? 2005年デビューのディズニー社のボーイバンド、ジョナス・ブラザース。その頃人気絶頂の彼らが、自分たちの「純潔」を象徴する指輪を身に付け、それをコンサートやメディアで告白しちゃった。王子様は童貞、です。

 もちろん米国はクリスチャン国家なので童貞も処女と同じく大切なものだから、できるだけ取っておけばいいんじゃない、という意見も普通にあります。第一、言葉も男女共通に「virgin」ですし。童貞に対してそれほどにネガティブなイメージは無い。宗教的な価値観から、処女性と結婚、結婚とセックスと愛、これらの乖離は日本のようには進んでいないということも有ります。

 また童貞カミングアウトの前段として、ブリトニー・スピアーズやらクリスティナ・アギレラなどによる「処女宣言」ブームが有ったことは確かです。長らく「性の解放」という一方向に向かってきたアメリカ。性行為の経験年齢がどんどん下がり、十代の妊娠、性行為感染症が非常に増えた、そのようなネガティブな現象に対しての反動として、クリスチャン右派が保守的な性と結婚への価値観を打ち出す。アメリカは9/11後、「安全は自由に勝る」という言葉どおり、保守的な方向に向かっていきましたし。そしてジョナス兄弟の家庭の宗教はエバンジェリカルという、プロテスタントのなかでも、強力に保守的な一派です。

 とまれ、ジョナス兄弟が左手薬指につけた指輪はプリ・ティーン、ローティーンの少女たちと、保守的な母親層には強烈にアピールしたのでした。純潔の伝道師ジョナス・ブラザースのコンサートはお高く、キャラクター提携のジュニアファッションライン、キャラクター文具などの商品も消耗品としてはお安くはない。もちろんリング自体も流行りまくり。これでモラルや安心が買えるならお安いもの? でも、これが成立するためにはひとつの前提が必要でした。

 それは、実は彼らこそ「性的な幻想を売る存在であった」という事実ですね。要するに、もし彼らが年若い女の子達に対してセックスアピールを放つアイドルという存在でなければ、「童貞だろうがなんだろうが、どうぞご勝手に」と言われてしまうだけじゃないですか? 童貞なんて、超個人的なことをなんでわざわざ表で言う必要があるの? と、こう暴いてしまったのが、過激アニメ番組で有名な『サウス・パーク』です。

 このサウスパークの『ザ・リング』エピソードを簡単にかいつまんで言うと、主人公のケニーは同級生の女の子とヤリたい。女の子を「ソノ気」にさせるには、アレしかない! と、一生懸命苦労してジョナスコンサートのチケットを取り、コンサートデートへ。彼女をジョナスでコーフンさせたらドーテー捨てられるかな、ヤレるかなと激しく期待。しかし期待は見事はずれる。『純潔リング』が登場しちゃったからなのだった、ちゃんちゃん、というお話です(笑)。

 ジョナスファンガール、と呼ばれた少女たちがいました。いわゆる一般の少女ファンとは一線を引かれた熱狂的ファンの彼女たちの特徴は「ブサイクでデブ」。一昔前のジャニヲタがそんな風に言われてましたよね? たぶん、いや絶対に処女、とメディアにもからかわれている。日本に比べ、一般的にはやはり早熟なアメリカのティーンエイジャーですから、処女の価値をいくら大人が認めても、やはり「処女=モテない」というプレッシャーは大きい。

 そこに降臨した救世主が「童貞」の王子様だったわけです。超人気者のイケメンアイドルが売る極めてクリーンな性的幻想は「Too good to be true…」(素晴らしすぎてありえない)。そう揶揄されてはいたのですが、あくる年、2009年には長兄ケヴィンが電撃婚約、続いて次兄ジョーがアシュリー・グリーン(トワイライト女優)とロマンス報道、それはやっぱりありえなかった、と気づかされた少女たち……。

 必要かつ真実だったのは、あくまでも少女たちの性的興奮剤としての彼ら(つまり消費の動機づけ)、かつ少女たちの「処女性」(つまり、親の財布の紐を緩めるための理由)であって、本当に彼らの「童貞性」なんて気にしていたのはファンガールだけだったのかもしれません。今でも時々見かけます。本当に裏切られた気分だった、と元ファンのジョナスゴシップ記事に対する書き込みにはあります。

 彼らの人気はこの2008年を頂点に2009年以降は下がり始めました。彼らも人間ですから、恋愛もするでしょうし、大人になっていく。いつまでも「童貞王子」でいられなかったという「リアル」な現実。そしてこの「童貞ごっこ」によって「ボーイバンドは大人には向かない」という、北米市場における予定調和のようなサンプル事例になってしまったんじゃないか、と思うんですよね(しかもこのあと、アメリカには空前の「ティーンマム」(ティーンエイジャーママ)ブームが来ちゃいますし)。
(つづく)

■ライター 内藤茗(ないとう・めい)
米国在住。ポップカルチャー全般が好きな二児の母&学生。
趣味:オタクの生態観察とつべめぐり。英-日翻訳者。

(有料メルマガ
http://www.mag2.com/m/0001552211.html 2012年8月30日号に掲載した記事です)