もう一つの重要な事実は、吉林省が中国の北朝鮮取り込みの先陣を切っていることだ。北朝鮮の羅津・先鋒経済特区の開発を主導しているのは吉林省であり、羅津の港湾の使用権を持っているのも吉林省なのである。つまり吉林省との関わりはその先に極東ロシア、北朝鮮の市場、または生産拠点の確保へと繋がるというわけである。

 この点にこそ、トヨタが、マイナーな感じがいまいち抜けない吉林省を選んだ大きな理由であると思われるのだ。

 すでにこの地では、中朝露に日韓を加えた5ケ国の経済交流が着実に進行している。そして、その“極東金三角”の生命線となっているのが、日本海を通して中朝露と日韓を結ぶ“黄金水路”だ。

 この“黄金水路”の隠れた中心となっているのが延辺朝鮮族自治州の琿春市という小さな街だ。琿春市の半径2百キロの範囲にロシア、北朝鮮の10個の港が分布している。地理環境に注目して中国は琿春市を“黄金水路”の要として重点的に開発してきた。

 吉林省長春で第一汽車と合弁で事業展開を進めているトヨタは、中国東北部と日本海経由で日本を結ぶこの地の将来を見越して、この地に進出したのだと考えても良いだろう。琿春市は琿春通商口と琿春鉄道通商口とでロシアと通じており、中国で生産された製品は、ここからロシアのザルビノ、ポシュット経由で韓国、日本に搬送される。このルートは、吉林省が国際港湾を活用して日本海に構築する事業の一環としてその整備に邁進しているのだ。

 トヨタに限らず東北で事業展開している日系企業が注目しているのは、4月24日長春市で締結された、琿春-ザルビノ-新潟を結ぶ国際陸海輸送ルートの相互代理契約だ。この契約は、中日露を結ぶ日本海横断航路の運営に始まる日本海『黄金水道』の新展開を意味しており、日中韓ロシア、さらには北朝鮮を含めた、来るべき極東FTAを先取りするものである。5月に開催された日中韓3カ国首脳会議(日中韓サミット)で、日中韓の自由貿易協定(FTA)について「年内の交渉入り」で合意したのも、この水路活用にめどが付いたからである。この“黄金水路”を使えば輸送コストは大幅に削減できる可能性がある。

 そしてもう一つは北朝鮮との関係だ。

 現在吉林省は先行的に北朝鮮との経済交流を積極的に展開している。琿春市西南は図們江を挟んで北朝鮮の咸鏡北道と向き合っており、北朝鮮との交易の重要な経路となっている。その窓口が圏河通商口と沙坨子通商口だ。 圏河通商口の向い側は、吉林省が50年間の租借契約を結んだ北朝鮮の羅津-先鋒自由経済貿易区に直接繋がっている。

 最近、琿春市と北朝鮮を結ぶ観光が再開されたが、この旅行事業は来るべき吉林省と北朝鮮の自由往来を想定しながら、そのシュミレーションもかねて行われようとしているようだ。実は吉林省は、北朝鮮との観光事業では痛い経験を持っている。北朝鮮の羅津には吉林省からの観光客を見込んでカジノが作られていた。このカジノ事業の要となったのは故金正日総書記と親密な関係にあったマカオのマイケル・フオ―であった。このカジノは人気を得た。国内での賭博事業を禁止している中国ではありえないカジノが車で日帰りできる位置に出来たのである。

 まず、延辺朝鮮族自治州の幹部がこれに嵌った。そして吉林省中央政府の幹部までが煩雑にこのカジノに出入りするようになった。

 そんな時、重大大事件が起こった。カジノに延辺朝鮮族自治州政府幹部が政府の金を横領しカジノにつぎ込んでいたことがバレたのである。この幹部は逃亡したが、安全部は彼を追跡し逮捕した。実はこの事件は単なる横領事件に止まらず深刻な問題が背景にあった。それは北朝鮮情報部の関与である。あくまで推測に過ぎないがこの自治州幹部は北朝鮮に嵌められたのではないかという“疑惑“である。北朝鮮はこの手の仕掛けはお手
のものである。そしてこのカジノは北朝鮮トップの金正日と親密な関係にあるマカオの賭博王が運営していたのだから、その”疑惑“もあながち穿ち過ぎとはいえないものであった。つまりこの事件は単なる公金横領ではなく国家の保安に関わる案件だったようである。

(つづく)

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