極東の輸送を劇的に変える“黄金水道” 中国東北部吉林省にシフトしたトヨタ

 トヨタは今、その生産と販売の主要拠点を、北米から中国へとシフトを変えつつある。このトヨタ中国戦略の扇の要にあたるのが、吉林省長春における「第一汽車」との合弁事業だ。

 トヨタはこれまでの中国自動車産業の中心であった上海、広州、天津などではなく、なぜ“辺境”である東北部の吉林省を選んだのか。

 実はここにはトヨタの深い思惑が見て取れる。
 
 現在、経済の減速が懸念され、同時に大規模な労働争議が頻発する中国から撤退する日系企業が増えつつある。だが、その中で東北部は違う様相を見せている。東北地方はかつての満州国の故地である。終戦当時この地には満鉄などかなりの資産が残されていた。特に遼寧省はそうであった。遼寧省は旧満州国の工場施設を活用し中国の軍事産業の拠点となっていた。中国の軍事産業の雄ノンリコなどは、ここに本拠を置いている。

 トヨタが合弁した第一汽車もそうした国営企業の一つであり、既得権に胡坐をかく傾向がなきにしもあらずである。第一汽車が本拠を置く長春はこれまで上海、広州、武漢、重慶と並ぶ中国自動車産業の拠点とされながらも、いまいち知名度のなかったのは、東北地方で独占的な地位をむさぼる国営自動車企業であるが故の弱点がもろに露呈していたからだろう。

 ところで、第一汽車もまた満州国の遺産の継承者(社)の一つである。満州に自動車産業を育てたのは鮎川義介率いる日産であった。第一汽車は日産の遺産を元に出発したのである。それから60
余年たった今、その第一汽車が日産のライバルであるトヨタと合弁するのも何か因縁めいたものを感じざるをえない。

 ところで東北三省は豊かな天然資源に恵まれていると同時に、労働力の面でもまだポテンシャルを有している。それにも関わらず東北三省が沿岸地域に比べ改革開放に乗り遅れた観が強かったことの第一の要因は、先に述べた軍需産業に代表される国営企業の既得権が強く民間企業の進出が遅れたことが挙げられる。彼らの“抵抗”は頑強で、新規の企業の進出は困難だった。これまで東北三省が沿岸地域からやや取り残されたきらいがあったのは、そうした理由からである。

 その一方で、新たな動きを誘発したのは日系企業の合弁事業展開だったといえなくもない。東北地方の経済を牽引するのは大連であるが、大連の工業力はその大半を日系の合弁企業が占めている。大連の成功は東北に新しい息吹を吹き込んだのである。そして東北地方の経済はまだまだ伸びる要素があるのである。

 ところで余談だが、東北地方は冬の寒さの厳しい地方である。それもあってこの地では、トヨタのランクルが絶大なる信頼を得ている。ランクルだけではないが、東北地方には車産業が伸びる可能性がまだまだ残されているのである。トヨタはホンダ・アコード、「上海第二汽車」が展開するアウデイの対抗車種として、カムリを前面に立てているが、今後はランクルの売り上げ上昇も期待されるところであろう。今回のトヨタの進出で長春が中国自動車産業の一大拠点として再び注目されるのは間違いない。

 しかし課題がないわけではない。先に述べたように第一汽車の国営企業的体質をトヨタが果たして変えられるか。その正否が今後を決定していくかもしれない。トヨタ方式が第一汽車の国営企業体質を吹き払うことができるのだろうか。

 トヨタの長春進出の動きは、中国を巡る自動車関連産業の新たな動きをも誘発している。トヨタの子会社であるデンソーは約16億円をつぎ込んで長春にカーエアコンの工場を開設した。NECエレクトロニクスは2008年7月に、100%子会社である日電電子(中国)が、車載半導体の拡販活動強化の一環として、吉林省長春市に支店を開設し、技術支援をはじめとした営業活動を展開してきた。これらは長春での活動は第一汽車向けの事業展開で、第一汽車の持ち株子会社である啓明情報技術への技術サポートが大きな地位を占めていた。

 NECに限らず、長春には第一汽車関連で多くの自動車関連メーカーが進出しているが、トヨタとの合弁で事業展開に拍車がかかることは間違いない。

 そうした動きは日系企業に限らない。2011年7月、ドイツの自動車部品メーカー、ハフ(Huf)は、長春に中国で4番目となる「長春ハフ・オートモーティブ・ロック社」の工場開設を発表した。この工場ではプラスチック成型、塗装の設備のほか、キー、ロッキングシステム、ドアハンドル、ステアリングコラムロックなど様々な生産ラインを備え、製品は周辺地域の自動車メーカーを中心に供給を目指している。その中にトヨタと第一汽車との合弁会社が入っていることは間違いない。

 日本と中朝露をダイレクトに結ぶ“黄金水路”がロジステイックを変えるその東北部で今、最も注目されているのが極東金三角と呼ばれる「中」「露」「朝」国境地帯だ。そしてこの地は吉林省に属する延辺朝鮮族自治州にある。延辺朝鮮族自治州は中国と極東ロシア、北朝鮮を結ぶハブなのである。

 すでにこの地は、極東ロシアの物資の仕入先として着々と実績を挙げつつある。
(つづく)

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