■アメリカ在住のライター、内藤茗さんからのお手紙です。今後、可能な範囲で往信していきたいと思います。


 
 小野さん、お元気でいらっしゃいますか? お腹出して寝てませんか? 寝冷えしないように、可愛い腹巻、イマドキ男子の必需品ですからネ(笑)。

 この2ヶ月くらいに渡り、J-POPやK-POPのこれからを考える上で、アメリカンポップ界にちょっと面白いことが起こっていますよ。

 それはズバリ「ボーイバンドの復活、オタクマーケティングと魔法の数字」です。

 ここ数年、たぶん10年近くに渡り、北米ポップアイドル界は女性なら、ガガやケイティ・ペリー、男性ならアダム・ランバートなど、ソロ歌手の活躍が目立っていました。一時は全盛を誇ったボーイズグループのファン層が低年齢化して、ミドルティーン、ハイティーンを惹きつけるに至らなくなったのは、ジョナス・ブラザースあたりからかなと思います。8歳から12歳くらいまでのプリ・ティーン市場で少女たちの圧倒的な人気を獲得していたジョナス・ブラザースの人気が冷え込んでからは、ここ数年、本格的な後続ボーイズグループも出ず、「ボーイバンドは死んだ」とも言われていたくらいです。モンキーズを生んだボーイバンドの元祖とも言えるアメリカポップ界でボーイバンドが死に絶えてしまったかも?

 それが2010年から2011年にかけてK-POP勢が侵入を始めた後に、雰囲気は変わってきたように思えます。まず、K-POPのボーイバンドを外見だけコピーしたかのような、Heart2Heartというグループが2011年頃から活動を始めますが、「これは、ゲイ・ポップだ」だとか「女の私より沢山化粧品使ってる」とか、野次ばかりが多く、まともに相手にされませんでした。

 最初に断っておかなければいけないことは、とりあえず北米では、ポップミュージック市場に限らず大人と子供の消費者市場にはかなりはっきりとした線引きがあるということ。映画のコード分類等を見てもわかりますが、あきらかな「性」や「暴力」などが子供市場から積極的に排除されます。

 ポップミュージック市場において、ボーイズグループの属性というのはどちらかと言えば、「お子様むけ」であり、日本のように30代以上の熟年女性がボーイズグループの購買層の中心帯を形成する等ということは、まあ考えられません。子供たちは大人になる過程で、これらの「シュガーポップ」を捨てていきます。ちょうど可愛らしい熊のぬいぐるみを捨てるように。ハイティーンになった子供を「大人になったね」とからかうのに、昔聞いていたボーイズグループのCDを引っ張り出せば、彼ら、彼女らはとんでもなく恥ずかしがります。

 そんなふうに恥として捨てられていくアイドルたち。日本で生まれて育って、日本的なアイドル鑑賞に慣れている自分からしたら、「もったいない」「つまらない」と思うわけですが、それが北米アイドル市場の在り方と言ってしまえばそうなのです。

 さて、そのボーイバンドの復権ですが、現在三つ巴の大乱戦です。まずは、今年2月頃「The Wanted(ジ・ウォンテッド))という英国、アイルランド混成の5人組から攻勢は始まりました。オーディションで選ばれた彼らは、ボーイズグループとしては、ちょっと大人めな19歳から24歳まで(平均年齢22歳)のグループ。2010年のデビューから昨年にかけては、主にに英国が拠点のグループだったのですが、今年からの全米ツアー開始とともにじりじりとチャートを上ってくるようになりました。革ジャンや、黒、グレー基調の衣装に包まれたメンズモデルっぽいセクシーな容姿と大人っぽいサウンド、ちょっと不良っぽいイメージに男らしいヴォーカルは一時期不毛だったハイティーン市場に殴り込みをかける勢いがあります。

 その後に続いたのが5月後半に全米デビューの「One Direction(ワン・ダイレクション、 通称1D)」です。こちらも英国出身の5人組。年齢は「The Wanted」より低くなって18歳から20歳まで。平均年齢19歳の彼らは打って変わって可愛らしい容貌が売りのグループ。とはいえ「X-Factor」というオーディション番組をそれぞれ単独で勝ち抜いた5人は、とにかく歌が上手い。ダンスはまあまあという評判ですが。キャッチーな楽曲にも恵まれ、全米デビューアルバムが初登場1位をビルボードで記録したのはもちろん、特筆すべきなのは彼らのツアーDVDの売上げが凄まじい。つまりビジュアルにもかなり力点有りという事です。爽やかで、普通に可愛らしく、あまり男オトコした感じのないスタイリング。日本の女の子からも、かなり食いつきが良さそうで、そろそろあちこちで火の手が上がっているようですね。  

 彼らのマーケティング手法は、かなり面白い。まず、デビューまもなくから、書籍を3冊続けて刊行。彼らについての「バイブル」をファンに持たせることに成功しています。

 強調したいのは、彼らのファンダム。これがまた凄いのです! 現象を起こしつつあります。大きく分けて、今2種類のファンが認知されているのですが、ひとつは「ダイレクショナー」という名称で、彼らの最初からの古参のファンである事がまずひとつの条件。そして音楽性の高い、グループとしての彼らを深く愛し抜く、という掟めいたものが存在するらしい。

 それに対する「ダイレクショネイター」。こちらは新規ファンをまず指します。またグループの中の誰かを「醜い」、「歌が下手くそ」と貶すようなファンあるいはメンバーの集合体として彼らを愛するのでなく、彼らの中のだれかひとり或いは数名の「容姿」などにしか興味のない「浅い」ファンを指す。これにはかなりの軽蔑感情が含まれるようです。もちろんファンたるもの「ダイレクショナー」が正統、というわけですが、何かかなりのオタク度の高さじゃないですか、これは。


 また彼らには既にメンバー同士のカップリングを題材にしたファンフィクション(FF)も沢山書かれているみたいで、最近増えつつあると言われるアメリカの腐女子購買層に、かなりがっつりと食い込んでいるところも、今までの欧米系ボーイバンドとは1線を画したオタクっぽさですね。でも、よく考えるとこれってジャニーズやK-POPのボーイズグループでは既に常識になっている手法ではないですか(笑)。 

 ですが、一生懸命参入を試みている肝心のK-POPのボーイズグループは子供マーケットか大人マーケットかの戦略策定が傍目にも難しく、しかも外国人歌手には言葉の壁と人種の壁が存在します。差別だなんだと言う前に人間の生理として、我われは自分たちに姿かたちが似ているという事実を無意識に好みます。アーティスト、というハードを輸出しようとするK-POPの北米上陸には、目に見える彼らの姿形、「人種」はやはりかなりのハードルかもしれません。そしてK-POPが進出に手こずるように見えているうちに、十八番の筈のオタク的マーケティング手法そのものはワンダイレクションとともに北米に上陸してしまった、という感じがします。なにせ、1Dのレーベルはソニー・ミュージックでも有りますし。

 そして、最後に「来てる」のが「IM5(アイムファイブ))です。彼らはワンダイレクションよりも更に若い14歳から17歳までの5人組。あの、セレブブロガー&音楽ジャーナリストとして有名なペレス・ヒルトンとアメリカンアイドルのサイモン・フラー、ジェイミー・キングによる企画ものです! 

 まだまだ新しいので、資料もろくに揃っていません。ですから人気のほどは、数字の上では未知数です。ですが、YouTubeには既にかなりの数の動画が上がっています。彼ら自身による自己紹介や、練習の様子、他アーティストのカバー曲、オフショット動画などが普通に見られる。

 実は私も何の予備知識もなく、「ねえ、この新しいボーイバンドダンス結構うまいよ」などと娘がいうので見てみたわけなんですが。「ダンス出来るじゃん」と。アメリカのポップアーティストの「ダンスのできなさ」にこのところ慣れすぎて、ダンスはK-POPと決め込んでいた私は半信半疑でしたが、なんとかなり踊れるではないか!

 1年ほど前から全米をオーディション行脚して発掘、5色の異なった音楽的才能、文化背景、個性が集まったグループが売り。そしてダンスがとにかくハイレベル。1年以上の訓練期間を積んできたようです。なのでデビュー前にかなり音楽、ダンス技術などは「作りこんで」ある感じです。ただどちらかというと見た目は、そこらへんにいる普通のティーンエイジャーという感じで、あまり洗練された感じは見えません。ぶさかわ系というか(失礼ですよね、私)。

 ただ、ここで思ったのは、北米市場においてはたかが「オモチャ」であった筈のボーイバンドに対して、デビュー前にこれだけの訓練、作り込みをする方式は、もしやまたもやK-POPの影響によるもの? しかも、本格デビュー前から完全なるYouTube世代であるティーンエイジャーの取り込みを促すように、かなりの本数のカジュアルな動画が動画サイトで流される。

 ペレス・ヒルトンは、K-POPを愛好していることでもよく知られていますし、今だと、芸能界のご意見番みたいな位置に居ます。彼に気に入られないと人気も出ない。彼はそれこそ、K-POPアイドルの「作り方」なんかももちろん知っているものと想像できるのですが、それを踏まえて企画されたこのグループはどう受け入れられていくのかな? 訓練して完成させるだけではなく、その様子を公開するというのは、もしかしたら「育てる」事を好むJ-POPの手法も取り入れるということなのかも。

 そして、偶然なんでしょうか、それとも必然かしら……。彼らは全て5人組であるということなのです。5はアイドルグループの魔法の数字と昔からよく言われますよね。SMAP、嵐、Back Street Boys、スパイスガールズ、KARA。いろいろ思い浮かびます。

 とりあえずこの乱戦は1歩先の「現象」を手に入れつつある1Dことワンダイレクションが、頭一つ抜け出ている状況でしょうか。とにかく、久しぶりにポップ市場に帰ってきた、この3つのボーイバンドから今目が離せない状態なのです!


ライター 内藤茗(ないとう・めい)
米国在住。ポップカルチャー全般が好きな二児の母&学生。
趣味:オタクの生態観察とつべめぐり。英-日翻訳者。

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