中国の携帯電話は安く、日本人でも身分証明書無しで簡単に買える。わたしは近くのデパートで売っていた一番安いLGの機種を選び、それが248元(約3200円)。1.5元/分で、100元分使えるSIMカードが180元だった。探せばもっともっと安い携帯電話もある。こういった廉価で足が付くことのない携帯電話を使って、日本で頻発している「振り込め詐欺」を行っている。実際に福建省で、中国人が日本人を雇って「振り込め詐欺」の電話を掛けさせていた件が摘発されたこともあった。

 そんな携帯電話でわたしが連絡を取ったのが「虞」という中国人の男だった。

 虞は88年に来日し、99年まで日本にいた。はじめは留学生として東京に行き、学生時代から雑誌のライターをしていたと言う。

「新宿歌舞伎町はよく取材しました。ゴールデン街は、今も東京に行くたびに訪れています。ライターとして本を書いたこともある。でも、今はテレビ関係の仕事をしています。近々、上海メディアグループという上海ナンバーワン、中国全土でCCTVに次ぐテレビ局で番組を立ち上げ、日本のスタッフを使ってバラエティ番組を制作します」

 虞もまた、成功した来日経験のある中国人の一人だ。今は東京と上海に会社を設立し、本業のテレビ関係の仕事以外にも、不動産や車などブローカーまがいの仕事もしているという。虞は言う。

「日本人の中国での音楽ビジネスに関する認識はおかしいです。ある曲の権利を中国側が『買いたい』と言うと、『海賊版が心配だから売らない』と言う。でも実際には『売ってないから海賊版が出てくる』のです。売りに出した後で海賊版を訴えればいい。また、『中国では人脈が重要』と言われますが、人脈さえ作ればいいというわけではない。最初から人脈構築に偏重しすぎて、失敗するケースも多々ある。日本人ビジネスマンは、中国のことをまったく勉強せずに飛び込んでくる人と、いつまでも中国のリサーチばかりして飛び込めずにいる人の2種類に分けられます。音楽業界は、リサーチは半年もしたら無意味になるので、次のリサーチに入ることになる。そして、いつまでもリサーチばかり続けなくてはならないとなります。決定のスピードがとにかく遅い」

 虞は中国に進出している具体的な日本の音楽・芸能関係各社の名を上げながら、その批判を繰り返した。

「日本は、コンプライアンス国家化していますからね」とわたしが言うと、虞は少しだけ皮肉な顔をして笑い、「そんなこと言っていたら、いつまで経っても中国でのビジネスは成功しない」と言った。

 2011年4月当時の虞の試算だが、中国の映画の市場規模は100億元だという。そして毎年40%以上増えている。そんな中国市場に対して日本映画は年間1、2本しか入らない。最近入った映画は『GOEMON』だという。そもそも外国の映画は中国に年間40本しか入らない。うち20本がハリウッド。残り20本をヨーロッパやアジアなどが取り合うという構図だ。そのほとんどが有名監督の映画ばかりで、マイナーな映画が入る余地はない。

 90年代に『101回目のプロポーズ』『東京ラブストーリー』といった日本のドラマが中国に輸入された。人気が出て、ドラマの出演者に中国のCMへの出演が打診されたが、日本のCMギャラよりも少し安いという理由でほとんどすべて断られたという。直後に韓国のドラマや映画が入ってきて、韓国人俳優は中国で一気に知名度を上げた。

 韓国は国を上げてコンテンツの輸出を支援。輸出する作品には補助金を出していた。そのため日本のコンテンツは人気が無くなり、輸入できなくなった。日本はテレビ番組のフォーマットをもっと売るべきだったと「親日派」の虞は言う。ヨーロッパなどは積極的に売っている。日本がヨーロッパに売った番組が、ヨーロッパを経由して中国に入ってくることすらあるという。

「中国では、日本のあらゆるコンテンツが盗まれている。もっと日本人も中国で稼ぐことを考えて欲しい」

 虞はそう強調した。

 2012年7月現在までに、日本の音楽・芸能関係者はどれほどの数が中国に攻めのぼっていったのだろう。正確なデータを持ち合わせていないが、虞のような中国人芸能関係者とやり合っている日本人業界関係者は、増え続けていることだろう。それだけは間違いは無い。
(つづく)

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http://www.mag2.com/m/0001552211.html に掲載した記事に少し手を加えました)