■地獄の新兵訓練

 

 韓国の兵役は2年間である。彼らはその期間のほとんどを兵営で過ごすことになる。

 

 入隊するとまず、8週間間の新兵訓練が待っている。これまでは5週間だったが今年から8週間に延長された。新兵訓練は忠清南道論山で行われる。ここでまず入隊した新兵は最初の地獄を見ることになるという。

 

 ここでは射撃訓練をはじめ、様々な訓練が実施される。この8週間で、普通の市民社会に慣れていた韓国青年たちは徹底的にシゴかれ、「軍人」に鍛え上げられていくのである。これを「本物の男」だと言う韓国人は少なくない。

 

 去年秋入隊した、ピことチョン・ジフン2等兵は、射撃訓練でトップ5に入る成績を収め表彰されたという。ピは、韓流スターとしてだけでなく、兵士としても有能なようである。

 

 こうした新兵訓練の中でも最も過酷なのは、慶尚南道項浦の海兵隊基地で行われる海兵隊の新兵訓練であると先に書いた。これは通常6週間行われるが「地獄の中の地獄の訓練」として知られている。

 

 海兵隊兵士には「誰でも海兵になれるならば、自分は決して海兵隊を選ばなかっただろう」という思いと、少数精鋭というモットーから、強い自負を持っていると聞く。そんな彼らが対峙するのは、北朝鮮の最精鋭、特殊部隊である。彼らもまた地獄の訓練で知られている。

 

 北朝鮮のそれは、やや誇張されているとは聞くが、韓国で大ヒットした映画『シュリ』の中で描かれていた。この映画には、わたしは圧倒された。

 

 くだんの映画のワン・シーン……。銃の分解組み立て訓練で、勝った方が負けた方を組み立てた銃で射殺するというものがあった。本当なのかどうか分からない。嘘だろうとは思う。しかし、こうした「敵」と戦うわけだから、韓国の海兵隊の訓練は、時に死者も出す過酷なものとならざるを得ない。

 

 韓国海兵隊の訓練と称するものが民放のバラエテイー番組で放映されたことがある。それは、海兵隊のOBがつくった会社が行っているもので、新入社員の特訓などで行っているが、本物はあんなものではないという。

 

 ヒョンビンは、地獄の訓練を無事終了し、北朝鮮と海を隔てて向かい合うペリョン島の海兵隊に配属された。ここはいつ北朝鮮から砲弾が飛んでくるか分からない、最前線中の最前線だ。もし再び北朝鮮と戦端が開かれたら、いの一番に北朝鮮兵が上陸する場所でもある。この島でヒョンビンは約2年間、韓国軍海兵として過ごすのである。

 

■まるで「たこ部屋」、韓国軍の兵営生活

 

 新兵訓練を終えると各部隊に配属され、いよいよ本物の軍隊生活が始まる。

 

 北朝鮮軍と直接対峙する38度線や延坪島などのNLL(北方限界線・海上に引かれた軍事境界線)にある島に配属された兵士は、常に準軍事態勢で緊張の日々を送ることになるという。

 

 38度線上……。イ・ビョンホンと『チャングムの誓い』ノイ・ヨンエが主演した映画『JSA』は、実質的には“戦場”を舞台にした作品である。

 

 38度線内にあるDMZ(非武装地0帯)には、その名前とは裏腹に無数の地雷が敷設され、監視塔には実弾を装填した機関銃やライフルを構えた兵士が、北朝鮮兵の侵入に備えている。韓国軍は38度線内を定期的にパトロールするが、それは北朝鮮側も同じで、パトロール中に両軍兵士が鉢合わせすることも度々で、銃撃戦になったこともある。

 

 韓流スターの青年たちが、K1ライフルを構えて、北朝鮮軍と銃撃戦を展開していることを想像することは、酷なことであるかもしれない。しかし、それは決してドラマや映画の中の話だけではなく、現実におこっている隣国の事態なのだ。

 

 しかし韓国の芸能人の多くは芸能兵となり、軍の宣伝や軍隊の慰問活動などの任務に着くことから、実際のところあまり心配することもないとの声もある。芸能兵として軍隊生活を送った芸能人には、チソン、コン・ユ、キム・ジェウォン、イ・ドンゴン、イ・ジュンギといった韓流スターをはじめ、歌手のJohn-Hoon、キム・ボムスやホン・ギョンミン、ムン・ヒジュンなどがいる。

 

 また現役兵の中には、自宅通勤する「常勤予備役」という服務形態で軍隊生活を送る者もいる。彼らは主に地域防衛や兵器管理などの後方業務に着く。現役兵の中からから選抜されるが、例えば俳優ヨン・ジョンフンは常勤予備役で兵役を終えている。

 

 しかし、厳しいのは軍務だけではない。兵営生活もまた“苦難”に充ちている。

 

 兵営では、新兵は奴隷同然の扱いを受けるという。古参兵はみな新兵時代に“いじめられた”経験を持ち、1年経って新兵が入営してくると、まるで自分の新兵時代の敵をとるかの様にてぐすねを引いて新兵を待ち受けている。そして彼らをいじめるのである。

 

 上士に進級すると兵営の中でいわば牢名主であるかの様に振舞う。寝転んだまま「タバコ」と一言いうと新兵が飛んできてタバコに火をつけると言った具合である。こうなると待ちに待った除隊はもう目の前である。

 

 新兵はよく殴られるという。勤務や訓練で失態を犯すと分隊全体が責任を取らされる。兵営に帰るとその失態を犯した新兵には古参兵の鉄拳の嵐が待っている。

 

 かつてはあまりのいじめの酷さから、神経に変調をきたす者や自殺者が続出。また、いじめた古参兵を射殺し銃を持ったまま逃亡、追跡した憲兵と銃撃戦の末、射殺されるという痛ましい事件が起こったりしている。最近では、軍の兵営生活のあり方は韓国社会の批判を浴び、少しは改善されたと聞くが、長い間の伝統はそう容易く変わるものではない。

 

 何故韓国軍の兵営でいじめが繰り返されるのか。それは我が日本と深く関係していると言う向きもある。

 

 朝鮮戦争時、韓国軍の主流を成したのは旧日本軍の軍隊経験を持つ男達であった。韓国の経済成長の立役者となり今日の繁栄の基礎を作った朴正熙元大統領も、日本の陸軍士官学校出身者で朝鮮戦争当時現役の佐官であった。

 

 彼らが作り上げた韓国軍は旧日本軍そのものであった。内務班と呼ばれる悪名高い兵営生活もその時持ち込まれた。韓国軍では「気合(キハップ)を入れる」という言葉が使われているが、これは旧日本軍の「気合いを入れる」と全く同じである。つまり韓国軍の兵営生活は、旧日本軍のそれとほとんど変わらないものであったというのだ。


(つづく)

 (有料メルマガhttp://www.mag2.com/m/0001552211.html に掲載した記事に少し手を加えました)