韓国に生まれた男なら避けて通れない道がある。兵役である。


 この問題を兵役の無い国、日本の男であるわたしが語るのは、やはり何かと重いものがあった。兵役の有る無しによる韓国人とわたしの「愛国」や「郷土愛」、「国家に対する貢献」などには、質的な違いがあることは否めず、隣国の異質な青年体験に対してどのような立ち位置が適切なのか、長い間、分からないでいたからだ。

 

 二十代の頃、同じ年頃の韓国人男性と会い酒が入ると、彼らはサッカーと軍隊の話をした。サッカーの話は分かるのだが、こと軍隊となると、こちらは話をすることができない。軍隊や兵役というものは、頭の中ではある程度は分かるのだが、分かった風に答えてしまうと、彼らの神経を逆なでするのではないかと慮り、言葉をつぐんでしまう。

 

 ある韓国人の若者は、兵役を断固拒否すると言って、日本のわたしの知人宅に泊まっていた。彼からいろいろと話を聞いた。兵役という過酷な任務からの単なる逃避ではなく、彼なりの思想的な理由が動機であることは痛いほど分かった。

 

 隣国の同世代の青年男子が直面する兵役に対して、その時わたしは、話を聞くだけで何かを言える立場にはなかった。徴兵制の無い日本で、わたしが兵役を避ける必要はもちろん無かったが、彼ら韓国人の若者が直面する兵役という問題をわたしは避けてきたのかもしれない。

 

 それから月日が何年か経った。なにかロジカルな理由がある訳ではないが、30歳の半ばも過ぎ、「男」的なる諸問題群から相対的に距離を取れるようになった今、隣国の兵役について思ったことを書いても良いのではないか。また、この一年半ほど、韓国の青年男子たちが作り出す文化・エンタテイメントにどっぷりと漬かったことから、そんな彼らの「戦士」性を意識せざるを得ないと思ったことから、ここに韓国の兵役と韓流スターたちについて書くことを試みてみたい。

 

 改めて書くまでもなく、韓国は北朝鮮と対峙する準戦争国家である。それは1950年の朝鮮戦争以来、60年以上も続いている。

 

 朝鮮戦争60周年目の2010年には、韓国では朝鮮戦争そのものを取り扱ったドラマや映画がいくつも作られた。ドラマでは俳優のソ・ジソプとキム・ハヌルが競演した『ロードナンバーワン』、映画では今人気絶頂の「ビッグ・バン」のTOPが、俳優クォン・サンウと主演した『戦果の中へ』がある。数年前に公開され、韓流ブームの走りの一つとなったチャン・ドンゴン、ウオンビン主演の映画『ブラザーフット』も朝鮮戦争が舞台だった。

 

 韓国にとっては、朝鮮戦争は決して過去のものではなく、現在進行形である。先述したように、わたしが韓国の男たちと話をする時、この「戦争」という言葉が重くのしかかる。

 

 韓国と北朝鮮は休戦しているだけで戦争状態は依然継続中だ。2010年に起こった北朝鮮潜水艦による韓国軍艦「天安撃沈事件」や、ソウルからそんなに離れていない延坪島に対する北朝鮮の砲撃では、韓国側は多くの戦死者を出している。そして38度線では小競り合いが日常茶飯事で、韓国軍兵士が負傷したり、悪くすれば死ぬという事件が頻発している。

 

 前置きがいささか長くなったが、この兵役という道は、韓流スターたちにとっても避けては通れない道だ。わかり易く言うと、現在兵役中の「超新星」のユナクや、現在NHKBSプレミアムで放送中の『シークレットガーデン』で主役を勤めているヒョンビンが、北朝鮮の不意打ちを受けて負傷したり、最悪の場合、死ぬことさえありうるかもしれないと言うことなのだ。

 

 そして、これは現在人気絶頂のチャン・グンソクや東方神起、JYJのメンバーが、そうした運命に曝される可能性があるということも意味する。中でも韓国軍の最強部隊で、北朝鮮と最前線で対峙する海兵隊を志願したヒョンビンは、その可能性が相対的に高くなる。

 

 通常、兵役に就いた韓流スターたちは新兵訓練が終わると、芸能部隊や、宣伝部隊に送られることになり、いわゆる前線に配備されることはあまり無い。しかしヒョンビンは、あえて最前線の海兵隊、通称ヘビョン(韓国語で海兵)を選んだのである。

 

 前線勤務だけではない。ヘビョン(海兵)は、その訓練の凄まじさでも通常部隊を遥かに超えていると聞く。10日以上も食料を持たず山に籠り、草や蛇、カエルなどを食べて過ごすと言うようなこともあるという。冬は凍った川の氷を割り、その中に上半身裸で飛び込んだりもするのである。こうした訓練中に事故死する兵士も少なくない……。

 

 現在兵役中の韓流スターを列記してみたい。

 

 前出のヒョンビン、ユナクのほかにNHKBSでOAされた日韓共同制作のドラマ『赤と黒』で主役を張ったキム・ナムギルなどがいる。去年は人気歌手で俳優でもあるピ(Rain)ことチョン・ジフンも入隊した。『ロードナンバーワン』で韓国軍兵を演じた俳優ソ・ジソフも入隊し、本物の兵隊になった。

 

 今後の兵役予備軍は、チャングンソク、JYJはもちろん、キム・ヒョンビン、「ビッグ・バン」、「2PM」とスターたちの枚挙に暇が無く並ぶ。

 

 昨年11月、JYJのユチョンとジュンスが兵務庁に兵役のための身体検査を受けに行き、検査に通ったというニュースが流れた。これで二人は最小5ヶ月以内、もしくは2年以内に軍隊に行かねばならなくなったはずだ。

 

 10代や20代前半の男性スターは、ほぼ全員この運命を受け入れざるを得ない。まれに、肉体的理由で兵役を免れたスターがいないわけでも無い。代表はあの元祖韓流スター、ヨン様こと、ペ・ヨンジュンがそれである。

 

『大王四神記』で激しいアクションを演じたヨン様が、肉体的理由で兵役を免れたとは意外だが、理由は視力が弱いということだったらしい。チャン・ドンゴンもまたデビュー前に気胸手術を受けたという理由で兵役を免除された。

 

 韓国の兵役。先述したように、わたしを含む日本の男性は、それを語る時、さまざまなことを考えてしまい、言葉をつぐんでしまうことが少なくない。兵役を免除されたスターと最前線に自ら志願したスターの、そのどちらかを支持することは、もちろんわたしにはできることではない。

 

(つづく)

 (有料メルマガhttp://www.mag2.com/m/0001552211.html に掲載した記事に少し手を加えました)