2012年現在の時点での、芸能界における暴力団との関わりはどうなっているのでしょうか? また、いわゆる「暴対法」「暴排条例」対策に関して、どのように考えれば良いのでしょうか?

 元神奈川県警国際捜査課の刑事、小川泰平氏(『現場刑事の掟』イーストプレス刊著者)に聞ききました。

――(小野登志郎)暴排条例と芸能界についてお話ください。

小川泰平氏(以下小川)「分かりました。それには前置きが必要ですね。まず現在、日本全国に正式な暴力団員と呼ばれている者は、約35000人います。これは、暴対法で指定暴力団と言われている全国22団体の暴力団員の数です。

(1)六代目山口組17000人
(2)住吉会 5900人
(3)稲川会 4500人
(4)松葉会 1200人
(5)極東会 1100人
(6)道仁会  800人
(7)四代目工藤会 600人

 などですね。

 マスコミでは、暴力団の数7万人とか8万人とテレビ等で発表していますが、これには準構成員や周辺者も含まれています。
 暴対法が出来る前は、暴力団事務所等に行くと名札が掛かっており、組長から始まり、代行、本部長等々、肩書きがあり、立派な木の名札に素晴らしい墨の文字で書かれた名札か掛かっていた。暴対法が出来ることにより、全国の暴力団事務所からこの「名札」が消えた。それまでは、事務所等の「ガサ」に行った際に、写真1枚で組員が把握できたというわけです。

 また、所轄の暴力団担当刑事が定期的に事務所に行き、新しい組員が増えていないか、確認していたものです。この「名札」はもちろんだが、カレンダーになったホワイトボードや黒板があり、そこに「当番」の名前が記載されていた。「当番」というのは、「電話番」のことで、暴力団事務所は24時間体制です。

 この「当番」の名前に新しい知らない名前が入っていれば、新しい組員発見ということになります。新入りは、当然「当番」するからですね。今から考えればずいぶん牧歌的な時代ということになります。

 だが、暴対法が出来てからは、この組員の把握が難しくなり、既存の組員はいいとしても新規の組員把握が難しくなってきたことは事実です。それでも、名刺を押収したり、各種事件事故の取り扱い等から、暴力団員と認定しているというわけです。

 暴力団員として活動している情報はあるが、実際に名刺の押収等に至っていない、本人からの言動(供述)がとれないような理由で、指定暴力団員になっていない者も数多くいるのも事実で、準構成員や周辺者止まりになっていることもまた事実です。

 だが、昨今の各都道府県の暴力団排除条例により、「反社」と「密接交際者」という言葉をよく耳にすると思う。反社というのは、反社会的勢力の略であり、つまり、「ヤクザ」「暴力団」のことです。

 で、「密接交際者」というのが、ちょっと厄介なもので、決まった定義がない。

 少し前に「紳助ルール」というのが確立されそうだった。島田紳助氏が引退会見で述べた、自分ではセーフと思っていたがアウトだった。このアウトの理由は、(1)メールのやり取り(2)数回の食事(3)写真撮影(4)そのような立場にあることを知り頼みごとをする、です。

 島田紳助さんは、警察やマスコミが「密接交際者」と認定する前に、自分から、「密接交際者」と認めて引退をしてしまったわけです。この程度で「密接交際者」とされては大変だと思っている芸能関係者の方々も大勢いるのではないかと思われます。

 私も現職時代に、暴力団の宴席に紅白でとりをつとめるような超有名芸能人が数名参加し歌を歌っている映像を見たことがあります」


――(小野)そのような状況の中、日本の警察は、外国のマフィアや暴力団員を「反社」と認定することはできるのでしょうか? また、いったいどうすれば認定することができ、または、彼らが何をしでかしたら認定できるようになるのでしょうか?

小川「『反社』と認定することは可能だとは思いますが、状況次第だと思います。日本の芸能関係者とも関係の深い韓国でお話をしますと認定するかしないかは別として、仮にA氏がいるとしましょう。A氏は過去に犯罪歴があり、韓国内で暴力団(カンペ)として活動していた事実がある。それだけでは、現時点において、『反社』とは言えないと思います。

 日本でも同じですが、過去に犯罪歴があり、元暴力団員でも現時点で真面目に稼働していれば、『反社』とは言えないと思います。

 ですが、現時点ではカンペでなくとも、元カンペとして、その勢力威力を駆使したり、現役のカンペと付き合い等があることが分かれば、「反社」「密接交際者」といえるのではないかと思われます。

 ただA氏が海外となると、海外での認定が不可欠になると思います。海外で「認定」されても、日本国内において、その勢力威力を示し活動している等の事実が必要になります。必ずしも犯罪構成要件を満たす必要はないと思われます。

 そのような行為が日本国内で認められ、日本国内の警察が海外の警察に照会する必要があります。正確には、日本の警察庁から韓国警察庁に照会し、回答を得ることが必要となります。ただ回答が来るか、正確な解答なのかは非常に疑問ですが。また、そこまでやるか? というと疑問もあります」


――(小野)では、例えばそのA氏が日本で何かしでかしたら認定できるようになるのでしょうか?

小川「これは仮定の話になります。日本国内で、現役の『反社』と言われている者と、『共犯』関係で何かの犯罪を犯せば、待ったなし、だと思います。

 また、そのような「反社」の者と付き合いがあれば、「密接交際者」と認定されることは確実です。

 これは、『その筋の人間から証言を得ている』だけでは全くダメです。何の根拠もないことです。例えば、親しくしている証拠が必要です。『紳助ルール』で申せば、メールのやり取り、食事を共にする、写真を撮る、相手の立場を利用し何かを頼む、といったようなことがあれば『密接交際者』候補にはなるとは思いますが、これは、その者本人が島田紳助氏のように、全面的に認めた場合です。やはり、これも日本の『反社』の者と犯罪をしでかして、逮捕されるのが一番確実なことだと思います。

 海外の企業、法人会社を『反社』と認定するのは非常に難しいと思います。韓国に限って言えば、韓国国内で『カンペ排除』の号令がかかり、かなり厳しく取り締まりを受けていることは事実ですが、あくまでも現役のカンペでのこと。カンペの交際者までにその域が及ぶと大変なことになると思います。

 韓国の芸能関係は、日本に比べ閉鎖的なところがあり、興行権等まだまだ、その筋に頼っているところがあるようです。これには、金銭的な問題が大きく関わっているからです。日本の芸能界も過去はそうだったのではないでしょうか。

 なので、韓国内では普通に一企業として成り立っているものを、その中の1人が元カンペだから、現在『密接交際者』だからという理由だけで、その企業を『反社』とか『密接交際者』として認定することはないと思われます。

 また韓国以外の国で言えば、普通にマフィア関連が興行権を握っている国もあるわけです。海外の企業、例えばプロダクション等に、そこまでを求めるのは無理だと思います。その国では、マフィアでも日本にアーティストを送り込む時は、通常のルートで行っている場合は、そこまでは何も言えないでしょう。

 ただ韓国の場合は、隣国と言うこともありますが、最初から日本でのデビューを目指したり等、日本での活動を前提にしており、反復継続しての営業活動であり、日本の代理店、日本国内のプロダクション等々との付き合いが考えられます。日本の企業(プロダクション等)の判断が問われると思われます。ですが実際問題は、非常に難しいです。

 例えば、D社という、韓国のプロダクションがあったとします。今までは、健全な仕事をしていましたが、日本に進出するにあたり、都内の『反社』と言われる組織の力が必要になり、韓国内でその組織に顔が効くカンペを雇ったとします。ですが、役員名簿にも、従業員名簿にも名前がなければ、それを知る余地はありません。実際にブローカー的な人が存在するのは事実です。

 また、役員名簿や従業員にいたとしても、韓国は、キムやパクやチョンさんだらけです。その人達を全員、いったい誰が調べるんですか?

 韓国でも把握されてないことも数多くあります。そのような理由から、それなりに難しいと思われます。

 この件は、日本のプロダクション、または場所提供者(東京ドーム等)などの判断によるところが大だと思いますが、法とは別に、興行に関してはルールが必要になると思います。ですが、やはり大きなお金が動きますから、そこまで真摯に調査をするバカはいないでしょう。また、そのように調査機関もありませんから」


――(小野)仮に「反社」と認定できたとしても、警視庁でいえば組対三課や暴力団追放センターが企業や個人からの照会に対し、答えたりするのでしょうか?

小川「それは、無理だと思います。日本人でも難しいのに、外国人や外国の企業を認定すら出来ていないのに、答えられること自体が出来ないのが現実だと思います。そんなことしたら、日本以上に世界にはマフィアの数が多いと思いますので、大変なことになります。香港や、マカオや中国は、ヤクザだらけですよ」


――(小野)では、外国の犯罪組織、国際犯罪組織に対しては、日本の暴対法や暴排条例は無力ということなのでしょうか?

小川「無力と言われると、非常に残念ですが、結論から申しますと事実だと思います。日本で言う『反社』、つまりヤクザ者も海外の組織であれば、ある程度認められている場合もあります。私の知識の範囲ですが、日本の『反社』つまり暴力団と海外の暴力団とでは、立ち位置が全く異なります。

 また海外の場合は、日本のように、指定暴力団といったように、明確な区別がない国が多いようです。私は世界各国すべてを熟知しているわけではないので、日本以上に把握しており、厳しい国もあるかも知れませんが、日本に多く来日してくる者の国に限っては把握されていないと思われます。

 ただ、薬物や銃器の前歴者の把握に関しては、日本以上に厳しい国はたくさんあります。外国の犯罪組織、国際犯罪組織、というものを本当に日本の警察が把握しているかというと、非常に疑問です。

 私が現職時の話になりますが、外国人被疑者を逮捕してから、組織名が判明し(被疑者の供述から)その国に照会しても、無回答か、そのような組織は無い、という回答ばかりでした。本当に把握していないのか、そうでないのかは分かりませんがね」


――(小野)暴排条例で混乱した状況が芸能界にはそこかしこで見られます。中にはビジネス上の争いが生じた時に、悪意を持って「あそこは『反社』だ」と虚偽のデマを流す場合すらあります。芸能人はイメージが命であり、
そういうことを公言されてしまったら致命傷になります。今の状況に関して、いかが思いますか?

小川「確かに芸能関係者の中には戦々恐々としている方々もいると思いますよ(笑)。小野さんのおっしゃることは理解しています。ですが、これは法整備といいますか、一般企業や一般市民に対して色々と注文をつけ、中には罰則まで設けている条例です。が、これは企業や一般市民のために作った条例だと考えています。

 例えば、銀行の口座開設にしても、銀行は『反社』の方の口座を作りたくないのです。普通に取引するだけならいいのですが、例えば、小さい話で言うと、月末は銀行が混んでますよね。それをヤクザ者は文句タラタラ言って早くしてもらう。それがマンネリ化し、常に待ち時間なしのVIP待遇です。融資に関しても同様に、ムリムリが多いと聞きます。それが、今回の条例によって、口座開設を断らなければならなくなったのです。この条例を盾に、断わる名目が出来たわけです。

 マンションの賃貸でもそうです。貸す方も、仲介する不動産屋も、そのような『反社』の者に貸したくはありません。ですが、実際は貸していたわけです。マンションなどの場合、隣室の者はテレビの声は最小にし、中にはヘッドホンを使用したり、喋り声も聞こえないよう、ヒッソリ住んでいる者もいるのです。結局今回の条例を盾に、断われる名目が、大義名分が出来たわけです。今では、不動産売買にしても、賃貸にしても、重要事項説明に一文付け加えられています。不動産屋なんて、もろ手を挙げて喜んでいます。冷や冷やしているのは芸能人くらいでしょう」
 (おわり)

 (有料メルマガhttp://www.mag2.com/m/0001552211.html に掲載した記事です)